願うなら、きみが






ごめんね、星谷くん。この瞬間も好きで。


気を緩めると瞳からこぼれてしまいそうだから。気がつかれないようにぎゅっと目を閉じて、雫を閉じ込める。

見せたくない。だってこれが嬉しい涙だって、きっと星谷くんは困ってしまうから。



「……星谷くんは、もう平気なの?」



他の話題、だけど正直気になって仕方のなかったことを、涙が出てしまうのと引き換えに呟いた。

平気なわけはない。それはわかっているけれど、その先星谷くんがどんな選択をするのかまでは全くわからなかったから。聞くならきっと、このタイミングだと思った。


星谷くんは「んー」と、まるでそれを初めて今考えているみたいに沈黙した後で、「どうだろ」と、ひと言そう言った。



「わからないってこと?」

「まぁ……あんまり考えないようにしてたから」

「じゃあ……もう諦められる……? って、私が聞くことじゃないけど」



だけど知っている。星谷くんが先生のことをどのくらいの熱量で好きだったのか。だって私は、その熱にいつか触れてみたいと思っていたのだから。



「それもわかんないな。でも、諦めなきゃなぁとは思ってる」

「……そっか」

「まぁ、あれだ。まだ余裕で好きだね」



弱々しく笑いながら放たれた言葉に、ちくり、小さな刺激が走る。私にだから、気を遣わないで本当の気持ちを話してくれたのだろうか。そうだったらいいなと思う反面、ちくちくと見えない棘が胸を刺す。


容赦ないなぁ、ほんと。だけど、いい。いくら傷ついたってよかった。

星谷くんがまだ、私と関わってくれるのなら。



だって、本当はもう終わってしまうと思っていた。だけど、星谷くんがそうしないでくれた。



「八代」

「うん?」

「ありがとう、今まで話聞いてくれて」

「、そんなの、こちらこそだよ」



だから今はこれ以上を望むことなど、贅沢でしかない。

ちゃんとわかっているから、どうかこのまま穏やかに、このひとのことを気の済むまで好きでいられたらいいなって。

そう思いながら、後半はやっぱりこぼれてしまいそうな涙を我慢するのに精一杯だった。