神様は不公平だ。
そして、僕たちは不公平な人生を歩んだ。
例えば颯太。
颯太は双子の弟だ。兄の颯志とよく比べられた。
颯太が平均的な人なら、兄は優秀な人。
颯太がテストで80点だったら、兄のテストは100点だ。颯太がバスケで3点決めれば、兄は5点決める。颯太が3位を取れば、兄は1位を取るだろう。
小学生の頃から、兄の部屋には立派なトロフィーが、金メダルが、賞状が。それに比べて颯太の部屋はひどく殺風景だった。
それに加えて、颯太の親はガクレキチュウ?というやつで、できない颯太より、優秀な兄の方を贔屓した。
颯太の兄は聖人君子のような人だ。言葉遣いも優しく、怒ったところは誰も見た事がない。そのうえ成績も優秀ときたもんだから、先生や生徒は、颯太の兄はとても人気者だった。女子からはモテてたし、男子から憧れられてた。この辺で一番頭のいい高校にも、推薦で入学すると噂されているらしい。
颯太は度々、目を伏せ地面に走るありんこをじっとみながら
「あいつには、親に失望された気分も、兄を褒めるためのダシに使われる気持ちも、分からないんだろうな」
と、愚痴をこぼしていたのを覚えている。
かわいそうに。僕はその背中を見つめると、少し悲しくなるんだ。

そして春も、不平等な人生を歩んだ者のひとりだ。
春は気弱な人間だ。いつもビクビクしてるし、何より、虫が苦手らしい。その辺に転がるイモムシにいつもビビっている。
春はいじめを受けていた。1年生になった頃、気が弱いのをいいことに、複数人にいじめられていたらしい。春が虫嫌いなのも、給食に虫の死骸を入れられて、それを無理やり食べさせられたからだ。
先生もクズだ。いじめられているのを見て見ぬふりする。きっと、責任を取らないといけないからだろう。いい歳した大人が、子供ひとり救えないでどうするんだって、僕は思う。そもそも、こんな時代にいじめなんて古くさいことをしているやつもバカだ。
それから春は学校に行かなくなった。人と話すのが怖いと言ってたし、僕たちと話している時も目を合わせてはくれない。それでも、一緒に話してくれているからいい。学校から離れたこの公園も、滅多に人は来ないし、僕たち3人にとってはいいスポットだ。

そして、僕だ。
僕には姉がいた。姉は、両親にとっていちばん最初の子供だったから、それはそれは大切に育てられた。姉が5歳の時に僕が生まれて、両親は姉が居るまで僕も大切に育ててくれた。
それは、姉が10歳のとき。当時習っていたピアノのコンクールの日だった。姉はいつもより綺麗なヒラヒラの服を着て、母さんが精一杯セットした髪の毛を崩さないように、だいじにだいじに歩いていた日。
僕は姉と遊びたくて、コンクールに行く姉を無理やり近くの川に連れていった。優しい姉は、「30分だけね」と僕に微笑んだ。
そして、姉は川に流されて死んだ。
ヒラヒラの衣装を着た両親の天使。
母さんが精一杯セットした髪はバラバラになって、青い唇をした姉は、もう二度とかえらなくなった。
それから、両親の関係は悪くなって、母さんは僕を押し付けるように父さんに渡していったあと、父さんと離婚して、父さんからは「お前のせいだ」と殴られる毎日。
最低限の飯と寝床以外に僕の居場所はない。
ただ毎日、親のストレス解消にサンドバッグになるだけ。身体中に残る痣は、僕を苦しませた。

そんな3人だった。3人して公園に集まっては、傷の舐めあいっこして、春や颯太がたまに持ってくる漫画やゲームで一緒に遊んでは、みんな楽しく過ごしていた。