________僕は人を殺した。



僕の名前は陸野 空。
苗字はりくのと読み、名前はそらと読む。
簡単な名前だ。
ここは警察署の取締室。目の前には怖いおっちゃんとパソコンをいじっているお兄さんがいる。
ドラマで見るような灰色の机と眩しく光るライトスタンド。カツ丼は出してくれるだろうか...。いや、そんなことを考えている場合じゃないか。
灰色の机は先程から冷たく、この頃の季節のようで少し震える。それもそうだ。着ていたコートは血が付着しているから証拠として奪われて、今は薄着1枚。
まぁ...これを読んでいる人は僕がこんなに喋っているより、なんで殺人をしたのか気になるだろう。
僕は人を殺した。殺した理由は、じゃんけんで負けたから。「えっそんな理由で?」なんて思うだろう?そうだろう。
まぁ、詳しい話は後で聞かせてあげよう。今はこわーいおっちゃんの相手で忙しいから。

「おい、いつまで黙り込んでるつもりだ。」
髭の生えたおっちゃんは、ずっと黙っている僕にしびれを切らしたのか、怖い顔で僕を睨む。
「どんな風に殺した。なんで殺した。」
はぁ、ここにいるのが綺麗なお姉さんだったら、真面目に事情聴取を受けただろう。でもいざ来てみればこーんなにつまらないおっさんだし。まぁ、長引くのもいやなんで、ちゃんと答えてやる。
「...包丁で、みぞおちを。何度も刺した。
なんで殺した....?うーん、なんとなく。」
僕がそう答えると、警察のおじさんは顔をしかめる。
眉間にぐっとシワを寄せて、考え込んだ後こういった。
「なんとなくだと?真面目に答えろ。自首した理由もだ。もっと深い理由があるんだろう?」
深い理由?深い理由はもちろんあるけど...答えるのが面倒くさいね。だって長くなる。愉快犯を演じてさっさと少年院にポイしてくれればいいんだから。
「本当になんとなく、楽しそうだったから...。自首したのは、あなたたちと鬼ごっこしたくなかったから。」
はぁ...寒いし、さっきから手が震えてるんだよ。
早く終わらないかなぁ...。こんなんだったらじゃんけんでグーを出せばよかった...。
「....わかった。今日はもう遅いから終わりだ。ちゃんと話すまで一生取り調べをするからな。」
やぁっと終わったよ....。もう何時間が経った?気が狂いそうだ....。
警察官に連れていかれ、警察署の留置場に戻る。
今日も寒い夜だ。まだ手が震える。
僕はまだ育ち盛りの中学生だってのに、こんな時間まで取り調べしやがって...。
ああそうそう、なんで殺人したのか詳しく話してあげよう。
僕はさっき、じゃんけんで負けたと言ったけど...。
1人でじゃんけんしてるような悲しいやつじゃない。
この犯罪には共犯者がいる。まぁ、その共犯者も僕が殺したけどね。僕の親も共犯者もそいつらの親も、全員僕が殺してやった。いち、に...6人...いや、7人くらい殺したかな。奴らの死に様は本当に素敵だった。
そういや、あの日の夜空は星がキラキラ輝いて綺麗だったな...。人を殺してすぐ、よく遊びに行った公園のブランコに揺られながら夜空を見て思い耽った。
こういうの、エモいっていうのかな。とにかく綺麗で、共犯...いや友達にも見せてあげたかった。
僕の友達は2人いる。同じ中学校で出会った。
1人はひとつ上の学年の...中学3年生。双子らしい。
名前は宮本 颯太。みやもと そうた だ。
双子の兄は颯志 そうし と言って、学校では人気者。結構モテてたらしい。颯太も結構颯志に似てイケメンだったけど...本人は似てないって言ってた。
バスケ部で背が高かったから、よく僕のことをチビだってからかっていた。
2人目は篠瀬 春 しのせ はるという名前。
こっちは同じ学年だけど違うクラスの不登校。
よく行く公園でたまたま出会って意気投合。
すぐに春と颯太と仲良くなった。それまで友達なんていなかったから、僕はすごく嬉しくて、毎日3人揃って遊んだ。でも、楽しいことばかりじゃない。

人生は不幸なことが8割を占めて、神様は不公平なんだから。