「君のことを聞いてばかりで申し訳なくなってきたから、俺のことを話そう。……誰にも言ってないんだが、俺は痛いことと苦しいことが苦手だ」
「へ? そうなんですか?」
気恥ずかしそうな顔をしながらアルバート様は頷いた。そして、左手で優しく右腕の傷を撫でる。
「だから、君の治癒が痛くないことに感動した。俺の軍の治癒は痛くて怠い状態が続く。また、それを味わうのかと思っていたら、君の方法は痛くないし、怠さもほとんどない。おかげで、こうして事務仕事ができる」
「仕事は程々にしてくださいね。傷もまだ完全に治った訳じゃないですから」
「うん。ありがとう」
アルバート様は花が綻ぶように笑った。その笑みが素敵で、思わず息を呑んでしまった。鼓動は早鐘を打ったままだし、このままだとどうにかなってしまいそうだ。私は椅子から立ち上がる。
「あの、そろそろ戻らないとなので失礼してもよろしいでしょうか」
「ああ。引き留めてすまなかった。明日も時間があったら話そう」
「は、はい」
私はアルバート様に見送られながらテントを後にした。胸の鼓動に背中を押されるように駆け足で治療所に戻る途中、鋭い視線を感じた。思わず振り返ると、レティシア様が親の仇でも見るような目をこちらに向けていた。私は慌てて顔を逸らして、治療所に駆け込む。ぜぇぜぇと肩で息をしていると、エドワード様が大きな欠伸をしていた。
「ああ、眠い。随分と遅かったじゃないか、エミリー」
「エドワード様、すみません。今、代わります」
「大丈夫。もう仕事は終わったから。それよりも何していたんだい?」
「アルバート様と話していました」
「そっか。楽しかった? 随分頬が赤いけど」
エドワード様は意地悪そうな顔をして、私を伺うように見つめる。私は慌てて手を振る。
「こ、これは走って帰ってきたからです」
「本当かなぁ?」
「からかわないでください!」
「まぁ、いいや。それにしても兄さんがねぇ……。面白いことになってきた」
なぜか機嫌が良くなったエドワード様を不思議に思いつつ、私は持ち帰ってきた鞄の中身を整理する。顔を上げると、エドワード様はまだニヤニヤしていた。
「何、ニヤついているんですか?」
「別にぃ?。ま、がんばれ、エミリー。僕はお前を応援しているよ!」
「え? なんの応援ですか……。なんか、怖いんですけど」
「怖くない、怖くない。あ、もう帰って寝ていいぞ。僕も帰るから」
「わかりました」
私は言われるがまま自分のテントに戻って休んだ。
