うみに溺れる。



ガタンッ、という音がして咄嗟に振り返るとそこには今1番居てほしくない人が立っていた。



「やっぱり好きなんじゃん」



今まで1度も見た事がないくらいの冷たい瞳。
真っ黒で光を通しておらず虚ろに俺を見ていた。


「っ、しずっ、」


肩に掛けていた鞄を持ち直し雫玖は俺らの方へ近寄った。


「海。こーら、海!起きて!こんな所で寝たら風邪引くよ?」

「んん、」

「体も痛めちゃうよ」

「…ん、あれ…。雫玖?」

「……ほら、帰るよ」


まるで俺が居ないかのように海だけに話しかけ机の上に広げたテキストを淡々と鞄へ詰めていく。


「雫玖、しず、」

「忘れ物ない?勉強は俺の家で続きやりな?」

「ごめ、雫玖、」

「昨日母さんがケーキ焼いてたんだ。上手く出来たって喜んでたから海も食べてあげてよ」

「雫玖!!!」


雫玖の腕に触れた俺の手は思い切り振り払われた。





「触らないで」





ぞくりとした何かが背中を伝った。
まだ寝ぼけている海は何も分かっていないようだった。