うみに溺れる。



そっと近付いて頬に触れた。
サラサラした綺麗な肌に触れたのは初めてだった。


…ダメだと分かっている。


でもこんな風に名前を呼ばれてしまったら。
俺だって、海の事が好きなんだ。




─────『なんで?海ちゃんに“振り向いてほしい!”とか“自分のものにしたい!”とかいう気持ち湧かねぇの?』




あの時はお行儀よく綺麗事を言ったけど、本心は…俺の心の深い所では全く違う。

俺の方が多分早く好きだったよ。
俺だけを見てほしい。
俺と居た方が海は楽しいと思うよ。

別れてほしい気持ち半分、この気持ちに一生気付かないでほしいと思う半分。


熱くなった体に冷えた風は気持ちよく感じた。
俺と海しかいない教室で呑気に眠ったまま俺の名前を呼んだその唇にそっと触れた。

きっとどうかしてる。海は俺のものじゃないのに。
雫玖のものなのに。


目覚めないで。知らないままでいいから。


ふ、と離れても海は目を覚まさなかった。
でも世の中そんな甘く物事は上手くいかない。