うみに溺れる。



「おーい、海さーん」


柔らかく冷たい風が吹いて、窓が開いているのに気が付いた。

こんな季節に窓開けてたら風邪引くのに。

海が見える窓際の席。
海は席替えをしてもよく海が見える窓際の席を引き当てていた。
それを雫玖は羨ましいと言っていたのを思い出した。


「……んん、ぅ」


窓を閉めようとしたら海が小さく声を漏らして動きを止めた。

小さく寝息が聞こえてドキッとした。
今まで意識した事がなかった海が無防備に眠っているという、目の前の光景。

意外とまつ毛長いんだな、とか風に巻き上げられて香る匂いとか。


唇とか。


「っ、」


帰ろう、今すぐここから居なくなった方がいい。
雫玖の事だからきっとまだ学校にいるはずだ。

これ以上ここに居たら可笑しくなりそうだ。





「………………たか、と…」





教室から出ようとしていたのに微かに聞こえたその言葉に俺の足はいとも簡単に止まった。

雫玖、じゃないのか。
寝言で呼ぶ名前は俺で合ってるのか。