海のすぐ近くを通る通学路。
これまで何度もここを通った思い出の道。
定期的に迫る波の音が私は好きだ。
「………やめてよ、」
その波音に隠れるくらい私から出た声は小さく掠れていて、果たして空人に聞こえていただろうか。
「…ごめん」
ぎゅっと心臓を握り締められるようなあの感覚を忘れられない、というか思い出したくもない。
いきなり立ち止まった私につられて空人も立ち止まる。
左手にある海へと視線を移した。
夏場はあんなに人で溢れかえっていたというのに、今ではまばらになっている。
そしてこれから冬を迎えて人は寄り付かなくなるのだ。
─────『僕、海好きなんだよね』
悪戯に笑うあの表情も声も、全部覚えている。
「海?行かねぇの?」
「あ、ごめん」
私達にはもう1人、幼なじみがいた。


