うみに溺れる。



「中学ん時のだろ?」

「そうそう」


中学生の時、何かに影響されたのか突然空人が『カブトムシ捕まえに行こうぜ!』と言い出した。
…虫が嫌いなくせに。


「あんたがカブトムシ捕まえに行こうって言ったのに怖がって結局収穫無しで帰ったよね」

「いや、カブトムシって見た目ほぼゴキブリじゃん。思ったよりテカテカしててキモかったんだよ」

「そんで雫玖が面白がってカブトムシ持ったまま空人追いかけ回してたのは腹よじれるくらい笑った」

「あいつ、…まじであれ今でもトラウマなんだぞ!」


半泣きの空人をハハハハハッと爆笑しながらカブトムシと共に追いかけ回していたのは本当にサイコパスだった。
今思い出しただけでも笑える。


「……なぁ、マジで一回忌行かねぇの?」


スマホを閉じた瞬間、人がいない浜辺に波の音が響く。


「…うん、行けない。怖い、ごめん」


お葬式の日の黒い額縁に納められたいつかの笑顔の写真。
淡々と進んでいくお葬式に涙も出なかった。


「……チキってんじゃねぇよ馬鹿」


まだ私の傍には雫玖が居る。
死んでない。生き続けている。