その日の休み時間。
「美咲ー!!あんたいつの間に、晴斗先輩と仲良くなってたのよー!?」
机に突っ伏して、今朝の出来事を記憶から消し去るように、ふて眠を決め込んでいたところを、後ろから猪のように友人の一人が突進してくる。
美咲とクラスで仲の良い三人のうちの一人、真美だった。
いつも活発な真美に椅子を押されて、サンドイッチのように椅子と机に身体を挟まれる。
「痛いっ!もうっ!早起きの損はいつまで続くの!」
「話をそらすな!今日の朝、あんたと先輩が道で仲良く話してるのを見たって子がいるんだからね!」
「仲良く?」
「カップルみたいにお似合いに見えたって…!このぉ、裏切り者ぉぉ~!!」
真美は今にも噛みつきそうに、美咲に顔を寄せてくる。
あれのどこが仲良く、しかもお似合いに見えたのだろう?と、美咲は呆れた。
冷め切った短い会話の後、晴斗が一方的に私から去っていった。
あれで仲がいいのなら、世の中のカップルはどれだけ冷え切っているのだ……。
「ちょっと喋ってただけだよ」
「何を?美咲、あんなに先輩に興味ないふりしといて、抜け駆けするつもり?」
「抜け駆け?やめてよ。私は晴斗の事、最初から好きでも何でもないから…」
朝の会話内容を思い出して、怒りが再燃する。
「ってか、大っ嫌いだし!」
「ちょっと待て…。あんた今、あの先輩を晴斗って言った?」
「言ったけど?」
「呼び捨てで?」
「呼び捨てで」
「何で?一つ後輩のあんたがそんな事できるわけ?やっぱり二人、裏でできてるんでしょ!」
「できてない!」
「だって、あの晴斗先輩を呼び捨てにできるのは、先輩の友達か彼女くらいじゃない!もういい加減、白状しな!!」
「家族だから」
今、一番認めたくない言葉だけれど、これが事実なのだから仕方がない。
彼女に間違われるという不名誉よりは全然マシ。
「は?」と、真美の顔が間近で石のように固まった
側で様子を伺っていた、他の二人の友人も、真美と同様に固まっていた。
そのうち、「美咲、一体何の冗談?」と、無口でクールな友人、千晶が問う。
「冗談だって思いたいけど本当。晴斗は私の兄なの。名字一緒だし。片平晴斗と片平美咲」
「確かにそうですけど、兄妹とか初耳ですね。一体いつから、そうなったのですか?」
と、美咲に敬語口調で話してくるのは、ほんわか女子のお嬢様、桜子だ。
「もちろん、生まれた時からだけど?」
「でも美咲ちゃん、そんな事、今まで一言も言ってなかったじゃないですか?」
「皆が晴斗の事を、崇め奉ってたから言いたくなかっただけ。それに、晴斗は半年前まで父親と一緒にずっと海外にいたし、一緒に住んでたのは小さい頃だけなの」

