意地悪な兄と恋愛ゲーム



 雑音が酷い。

 けれど今、電話の向こうで俺を求めているのは、間違いなく美咲だ。 


「…暗くて、こ、怖い…」


 そして、美咲が恐怖を覚えているのは、この停電のせいだ。


 自分が今、美咲の側にいない事に酷い苛立ちと後悔を覚え、携帯を握る指に力が入った。


 美咲に嫌われたって何だって、

 今夜は俺が、一緒に居てやるべきだったのに!


「今から帰るから、美咲はそこでジッとしてろ!」


「……か、帰るっ…て?」


「家だよ。今、家にいるんだろ?」


「違う…よ…」


「…違う?今、どこにいるんだ?」


「……さ、サッカー部…の………


 そこまでで、電話はプツリと切れてしまった。


「美咲!?」


 何度もかけ直したが、電池切れか、繋がらない。


 たった数秒の、まるで夢幻のような電話に、晴斗は呆然とその場に立ち尽くす。



「晴斗君、今の電話、誰?一体、どうしたの?」


 隣にいる妹が、気遣うように声をかけるが、晴斗の耳には一切届かない。


 晴斗は友達に振り向いた。



「颯真、ごめん。俺、帰るわ!」


 それだけを言い残し、晴斗はそのまま家を飛び出した____