「もう、気にしてないからっ!」
美咲は、前を行く晴斗の背中に駆け足で追いつくと、呼び止めて言った。
足を止め、振り返った晴斗は、美咲が急いで自分を追いかけてきた事が信じられないように目を丸くした。
美咲は息を弾ませながらも続ける。
「…昔の事。昨日の夜、謝ってもらったんだし、もう気にしてない。だから、私に気を遣って早く出て行くとか、やめてくれない?」
「……別に俺、そんなつもりじゃなかったんだけど…」
状況を理解した晴斗は、一呼吸おくと、あっさりと否定した。
「えっ…」
今度は美咲が目を丸くする番だった。
「私に気を遣って、さっきは早く出て行ったんじゃないの?」
「まさか。俺は、美咲が俺を嫌いなら、それはそれで構わないって思ってるし…」
「は?」
予期せぬ返答に、身体が固まった。
「母さんに言われてここまで追いかけて来たんだろ?だからって無理矢理、俺に近付いてこなくたっていいよ」
「っ…!」
近付かなくていいなんて、飛び上がって喜びたい言葉なのに、何それ!?と、腹が立った。
「い、言われなくても、とっくにそうしてた!だけど、お母さんは仲の良い兄妹を望んでるんだから、仕方ないじゃない!」
美咲が思わず叫ぶも、晴斗は至って冷静だ。
「それは親の勝手な押し付けだろ?何年も離れて暮らしていた俺達に、今更仲の良い兄妹とか、さすがに無理な話だと思うけど?」
「…っ」
ムカムカムカムカ____
腹の底から、怒りが込み上がる。
百も承知の事実を、綺麗に言葉にされるのは何て腹が立つのだろう。
よりにもよって、私の大嫌いなこの男に。
何もかもを見透したような態度が、余計に気にくわない。
「話はそれだけ?じゃあ俺、遅れるから」
晴斗は真顔でそう告げて、あっさりと背中を向けて行ってしまった。
「くぅ〜〜!!むかつく〜っ!!」
何なの?この敗北感。
好きでもない男に振られたみたいな、この無様な気持ち。
私に、あの男と同じ血が流れていると思うと、虫唾が走って仕方がない。
その後美咲は、身体中の血が沸騰しそうな怒りを抱えたまま、重い足取りで学校を目指した………

