意地悪な兄と恋愛ゲーム



 美咲は夕飯も食べずに、ずっと部屋にこもっている。


 さっきリビングで、母親に聞いた。

 俺は昔、幼い美咲のおもちゃを壊すだけじゃ飽き足らず、美咲自身に対しても、髪を引っ張ったり、頬をつねったりの横暴を繰り返した。

 母親の留守中に、押し入れの中に美咲を閉じ込めた事もあったらしい…。


 身勝手で、なんて最低な兄だったのだろう。

 今となっては、昔の自分を呪い殺してしまいたいくらいだ。


 けれど今日、図書室で、晴斗は今も昔も変わってないと美咲に言われた事を思いだし、情けなさから小さく苦笑する。


「確かに、その通りかもしれない……」



 肉眼で見ると曖昧なあの月は、瞬きの合間にも消えてしまいそうなくらい、儚げだった。


 夜空の濃い闇の中に、今にも溶けて込んでしまいそうなほどで、手を伸ばしても遥かに遠い。


 まるでそれは、幼い時から深く残った、美咲との心の距離を表しているかのようで、この胸を痛いくらい締め付けてくる。



「絶対に、俺のものにするつもりだったのに…」