「人の携帯を勝手に見るなんて、いけない子だね……」
背後から晴斗の声が聞こえた。
バキン!!
驚きすぎて、心臓が真っ二つに割れるかと思った。
晴斗は、美咲の頭上からスッと、自分のスマホを取り返す。
「まるで、彼氏の浮気を疑う彼女みたいだよ?」
「こ、これは、そのっ、え〜っと……」と、目が泳ぐ。
「別に美咲に見られて困るものは何もないけど、そんなに見たかった?」
「ち、違っ…」
「美咲は俺の事、大好きなんだね」
「〜〜!」
な、何でこうなるの!?
困り顔全開の美咲の反応に、晴斗は口元を緩めて楽しそうに笑う。
「分かってる。消しゴムの時みたいに、誰かに頼まれたんでしょ?」
「うっ、うん…」
晴斗には全て、お見通しみたい。
観念して、コクリと頷く。
「で、何を頼まれたの?」
「晴斗の電話番号が知りたいって」
「そうなんだ。でもさすがに、知らない相手に番号は教えられないな…」
それも、そうだ。
自分が晴斗の立場なら、きっと断る。
けれど、ここまできたら、後には引けない。
「で、でも、本人は悪用はしないって言ってるの!思い出にするだけだからって!本当だから信じて?」
「美咲にそこまで迫られると、心が揺れるけどね……」
晴斗は、難しい表情のまま。
今回は、さすがに無理そうかも。
「どうしても駄目?」
「それなら昔、美咲が好きだった相手が、どんな男か教えてくれる?」
「そ、そんな事?」
私の恋バナと引き換えなんて、晴斗が知らない子に番号を教えるリスクに比べたら、とても公平とは思えないけど、晴斗は「駄目かな?」と、聞いてくる。
「いいけど。面白くもなんともないよ?」
「いいよ。どんな人?どこで知り合ったの?」
「別に普通だよ。中学が一緒だった、一つ上の先輩ってだけ」
「ふぅん。付き合ってたの?」
「ううん。先輩が三年になってすぐ、告白したけどフラれた…」
「何が理由?」
「これから受験で忙しくなるし、高校に入ったら部活に集中したいから、きっと構ってあげられなくなるって」
大好きな先輩の邪魔にはなりたくない。
そんなふうに言われたら、諦めるしかなかった。
「先輩の一番には、なれなかったんだよ。私は…」
「そんな事ないと思うけど?」
「え?」
「俺には、美咲に淋しい想いをさせる事が分かっているから、最初からあえて、断っているように聞こえる」
「そんな訳ないでしょ。別にもう未練はないんだから、変に励ましてくれなくたっていい。それより、人の恥ずかしいフラれ話を聞けて、気は済んだ?」
「うん。やっぱり、聞かなきゃ良かったと、後悔してる」
晴斗は、自分の番号が載った画面を、美咲に見せてくる。
美咲は、ペンケースにあったふせんに、サッと番号をメモして、自分のポケットにしまった。

