あぐらの晴斗の膝と、正座の自分の膝が、今にもくっつきそうな事に気が付いた。
「半径1メートル圏内」と、晴斗が微笑むのを見て、美咲はとっさに、自分の口元を手の平で守るように覆った。
「…っ」
晴斗は座ったまま、三脚に望遠鏡を戻している。
「そう言えば、その消しゴム、持って行ってどうするの?」
「えっ?」
「今、美咲のポケットの中にある、俺の消しゴムの事だよ?」
くすねたの、ばれてる…!
「違う食事にでも混ぜる?」
「もう、そんな事考えないよ」
「それじゃあ、俺の私物が欲しくなった?」
「違う!晴斗のものなんていらないっ」
晴斗は驚いたような顔をして、それから少し困ったように笑った。
「そんなに全力で、否定しなくても…」
「…っ」
ここまできたらもう、正直に話すしかないか…
「これは…その……、晴斗の使っている物が欲しいって子がいて、その子に渡したくて…」
「それなら、そう言えばいいのに。持って行っていいよ、それ…」
「ありがとう。助かる!」
「でも一つ、条件があるんだけど…」
「な、何?」
「俺にも、美咲が使っている物をくれない?」
「えっ…私の?」
「そう。何でもいいから美咲が普段から使っているものを譲って欲しいんだ」
「私のものに価値なんてないよ」
「俺にはあるよ。美咲の物が手元にあれば、それだけで嬉しくなるから」
人に恋する気持ちを私は知ってる。
叶わなくても、好きで好きで
何でもいいから、その人を感じたい。
晴斗もそういう気持ち、分かるの?
好きって気持ちを、知ってるの?
「考えてみてくれない?」と言われて、美咲は真剣に考えてみた。
でも、何でもいいと言われたら実際困る。
消しゴムとか、ものさしとか、シャープペンとか、そんなありふれたものでいいのかな?
でも、私の使ってる文房具全部、私が好きなウサギのキャラクターが描かれてるんだけど。
晴斗がそれを持ってるの、何か笑えるかも。
学校の皆に見られても平気なのかな?
難しい顔で考えてから、ふと、ウサギの消しゴムを持っている晴斗を想像し、クツクツと一人笑っていると、フワリと薫る甘い匂いが、鼻先を掠めた。
耳元に、優しい吐息がかかる。
「ねぇ。頼むから今、俺の前でその百面相しないで?」

