晴斗が美咲の隣で、手元の消しゴムをのぞき込んでいる。
「きゃあっ!」
目ん玉が飛び出るんじゃないかってくらい、驚いた。
「はっ、晴斗!」
「驚くのはこっちの方。まさか美咲が、俺の部屋に来てくれるとは思わなかった」
晴斗は嬉しそうに笑っている。
部屋に頑なに入れてくれないと言う母の話とは違いすぎて、美咲の表情筋が分かりやすく引きつる。
「嫌なら、すぐに出てくよ」
「嫌じゃないよ。好きな女の子の方から来てくれたんだから」
「別に私の事なんて好きじゃないじゃん」
「まだ誤解してるの?」
「誤解じゃなくて本当の事を言ってるだけ」
「どうしたら、俺の気持ちって伝わる?」
「一生伝わんないから、いい加減私に執着するのやめてくれない?」
「それは無理な話だよ。美咲の方こそ諦めて、俺のものになったら?」
「それなら地獄に落ちたほうがマシ!」
「地獄ね…」と、晴斗は機嫌が良さそうに笑った。
晴斗が入ってきた時に入り口のドアは閉められ、明かりはベッド脇のスタンドライトと、窓から差し込む月明かりのみになっている。
「ところで俺の消しゴム、何に使うの?見たところ、紙もペンもなさそうだけど?」
「そ、それは…」
「まさか、俺のお粥に入れるつもりだったとか?」
クスクスと笑いながら言った晴斗だったが、否定しない美咲に「本当なんだ…」と真顔になった。
「ミ、ミミちゃんの復讐だし…」
「ミミちゃん?」
「昔、大切にしていたウサギの人形。晴斗にボロボロにされたの!だから、消しゴムをお粥に入れて食べさせてやろうと思って…」
「そっか…」
晴斗の顔が一瞬、曇る。
「じゃあその消しゴム、お粥に入れていいよ」
「えっ…」
「俺、食べるけど?」
「は?ば、ばかじゃないの?」
「それで、美咲の気が晴れるなら何だってする」
……呆れた。
普通、そこまでする?
「俺の気持ちが真剣だって、気付いて欲しいから…」
晴斗の気まぐれで始めた、たった一ヶ月のゲームでしょ…
「消しゴム、入れないの?」
不思議そうに聞いてくる晴斗に、何だかもう、どうでもよくなってくる。
私はもっと、晴斗が戸惑ったり、怒ったりするところが見たかっただけなのに。
「別に、もういい。それよりも風邪、よくなった?」
消しゴムを自分のポケットに、サッと忍び込ませた。
「風邪?」
「勘違いしないでよ。お母さんが、心配してたから」

