意地悪な兄と恋愛ゲーム




 どれくらいの間、こうしていただろう____



「美咲!」


 えっ…?


「美咲ったら!」


「なっ、何!?」


 母親に声をかけられて、美咲はやっと我に返った。


「何?じゃないわよ!こんなところでボーっとして!晴斗は?帰ってきたの?」


「は、晴斗?…………晴斗っっ!!」


 美咲は立ち上がり、両手で口元を抑えた。


 い、今の、きっ、きす!?

 私今、晴斗にキスされた!?
  

「どうしたの?何か様子が変よ?」
 

「な、何でもないっ!」と叫ぶと、自室へ向かって駆け出す。


「ちょっと…美咲!もう、夕飯なのよ!?」 


「いらないっ!」


 自室に駆け込み、バタンとドアを閉めた。

 
 静かな室内。


 今になって鮮明に浮かび上がる、晴斗とのキスの瞬間。


 頬にかかる黒い髪。

 柔らかな唇と、絡みつくような熱い吐息。

 雨の匂いが混じった甘い香り。

 耳元に触れる冷たい指先。


 終わった後の意地悪な笑顔。



 これ、私のファーストキスなんだよ?

 
 その相手がよりよって、あの晴斗なの?


 場所がムードの欠片もない、自宅の玄関で?


 しかもまだ、ゲーム1日目___!!



「………っ」



 最悪。



「記憶、消したい…」

 

 それじゃ、足りない。



「キスの前に戻してよ…」



 もう二度と、騙されないから。


 
 真っ暗な部屋の中、美咲は口から魂が抜けたように呆けたまま、ズルズルとその場に座り込んだ____