晴斗の黒髪は完全に雨に濡れ、水分を含んだ制服は色が変わってしまっている。
私は今、心底腹が立っている。
悔しくて悔しくて堪らない。
そのはずなの、晴斗の側から離れられなかった。
それは、晴斗が私をどんなにバカにしてきても、私の為にこの身体を濡らして帰ってきた、それが事実だと知ってしまったからだ。
その時、晴斗の身体がズルリと、美咲の身体に寄りかかるように倒れてきた。
「ちょ、ちょっと!晴斗?」
「………ん」
美咲が名を呼ぶと、晴斗は力なく、身体を起こした。
はぁ…と、肩で荒い息をしているのが目に入る。
「だ、大丈夫?なんか様子、変だよ?」
美咲は、晴斗の顔を見つめた。
青白い顔が、元々整っている顔のパーツを、美しい彫刻のように際だたせている。
「もしかして、体調悪いの?」
「ん…」
「顔色悪いし、もしかして熱でもある?」
「平気…」
晴斗はそう言うけれど、玄関先で今にも倒れてしまいそうな晴斗はとても平気そうに見えない。
その時、美咲は晴斗が、最近はずっと忙しくしていた事を思い出した。
「ねぇ、最近はずっとマネージャーの子を家まで送ってあげてたんでしょ?朝も夕方も部活で忙しくしてたし、疲れがたまってるなら、あまり無理はしない方がいいんじゃない?」
心配そうに顔を近づけてくる美咲を見て、晴斗は驚いたように目を見開いている。
それに気づかない美咲は、気にせずに続ける。
「自分の身体、もっと大事にした方がいいよ」
すると晴斗は、髪を掻き上げて、少し苛立ったような顔をした。
晴斗が美咲を見て笑う事があっても、こんな表情を見るのは初めての事だ。
「晴斗?」
「本当に懲りないな、これも全部演技かもしれないのに。美咲は早く、俺から逃げた方がいいんじゃないの?」
「演技だったとしても、顔色までは隠せないと思ったから」
晴斗は黙って美咲を見つめる。
晴斗は力なく笑うと、「こんな時に、煽らないでくれない?」と唇だけで呟いた。
よく聞こえなかった美咲は首を捻る。
「あお…?」
「それより、大丈夫だった?図書室の大事な本は、濡れなかったの?」
「えっ」
私が本を借りてきた事、何で、晴斗が知ってるの?
次の瞬間、目を開く美咲の頬に、晴斗の濡れた髪がかかっていた。
フワリと甘い香りが鼻腔に広がるのと同時に、自分の唇に、晴斗の唇が押し付けられていることに気が付いた。

