「ただいま」
晴斗は、玄関に座る美咲の姿に気が付くと言った。
「お、帰り…」
相変わらず、晴斗と対面すると、顔が引きつってしまう。
うまくいけば一ヶ月、顔を合わさずに済むかもっていう安易な考えは、さっそく打ち砕かれたわけだ。
「きょ、今日は、早いんだね…」
「この天気だからね」
母の予想通り、傘を持たずに現れた晴斗は、全身びしょ濡れだった。
衝動的にこのまま二階に駆け上がろうとしていた美咲だったが、晴斗の事が気になり、思い止まる。
そうしている間に、晴斗は疲れたように息を吐き、美咲の隣に腰を下ろした。
前髪からは雨の雫が垂れて、玄関の白いタイルを濡らしている。
「あ、あの、晴斗?」
「ん?」
「この傘って、もしかして晴斗の?」
「そうだよ」
「今日、私の下足箱のところに置いた?」
「うん」と、晴斗は頷いた
「どうして?」
「朝は晴れてたから傘を持っていかなかったでしょ?帰りに雨が降ったら、美咲が困ると思ったから」
今日、晴斗を優しいと言った、真実の言葉を思い出してしまう
晴斗はそんな事、する人じゃない
いつだって意地悪しかしない
じゃあ、この傘は何…?
「そうだけど!そしたら、晴斗が濡れちゃうじゃん!」
「心配してくれてるの?」
濡れた髪の隙間から、晴斗は真っ直ぐ美咲を見つめてくる。
その視線に耐えられず、美咲は否定の声を荒げた。
「ち、違うよ!」
返って肯定するような、その言葉の響きを受けて、晴斗はクスリと笑った。
「俺は平気。練習でも濡れるし、一回濡れれば同じだよ」
「だけどっ…!」

