放課後、いつものように美咲は図書室へと向かった。
図書委員の美咲は毎日、放課後の図書室の受付をしている。
とはいえ、放課後に図書室を利用する生徒は少なく、受付なんてあってないようなもの。
美咲は適当に椅子に座り、図書室を閉める時間まで本を読みあさるのが日課だった。
ファンタジーやミステリー、エッセイやポエム集、喜劇から悲劇、シリアスなものやハンカチを手放せないものまで。
本が好きな美咲は、時間を忘れて毎日読みふける。
昔から何時間でも、本に時間を費やしていられる質で、一度集中すると、声をかけられても気付かない事はよくあった。
家でも、お気に入りのお菓子を片手に、恋愛小説を読んでいる事が多い。
前から気になっていた、ミステリー小説を半分程読み終えると、時計の針は既に5時。
続きは家で読むことに決めた美咲は、貸し出しの手続きを済ませ、小説を鞄にしまった。
ドアを施錠し、玄関へ向かう。
「あ、あれ、雨?さっきまで、晴れてたのに…」
いつの間にか外は、どしゃ降りの雨になっていた。
そういえば、今日は夕方から雨になるから傘を忘れないよう、お母さんに言われてたんだった。
「傘持ってくるのすっかり忘れてた…」
これはもう、強行突破で行くしかないよね。
でも、鞄の中まで雨が染みて大事な本が濡れちゃうと嫌だな。
よし、服の中に入れて、守るようにして帰ろう。
靴を履き替えようとすると、美咲の下足箱に傘が引っかけられている事に気がついた。
「あれ?これ、誰の?」
使ってもいいのかなぁ?
キョロキョロと周りを見渡すが、周囲には誰もいない。
もしかして、学校の貸し出し用の傘を誰かが置いてくれたとか?
借りて、明日返そう…。
いつものようにグラウンドの側を通ると、雨音に負けじと声援が聞こえてきた。
サッカー部のフェンス前には、傘をさした女の子達が今日も立っている。
どうやら雨の中でも、サッカー部は練習をしているらしい。
人と人の切れ間から、長身の晴斗の姿が見えた。
何人もの相手をドリブルで交わし、晴斗が蹴ったボールは綺麗なカーブを描きながらゴールネットを揺らした。
その瞬間、女子達の歓声が雨空の元に響くが、晴斗はすぐにまた、ボールを追いかけ、夢中で走る。
その表情は見たことがないくらい真剣そのもので、美咲は思わず足を止めていた。
指示を出しながら叫ぶ晴斗の髪は、雨に濡れてキラキラと光り、適度な筋肉のついた均整のとれた身体が、雨で張りついたユニフォームごしに明らかになる。
昔の事は抜きにして、人を惹きつける魅力的なオーラが、今の晴斗には確かにあると美咲は思う。
そんな人と自分の帰る家が同じだなんて、未だ実感がわかないくらい。
成長した今、家の中でも学校でも互いと接する機会なんて、ほぼないに等しい。
それは晴斗も承知の上で、私にあのゲームを提案してきた。
昨日の保健室では感情的になってしまったけれど、朝も放課後も忙しい毎日を送っている晴斗が、幼い頃のように、まだ私を虐め抜きたいなんて思うだろうか……
肩にかけていた傘を、しっかりと持ち直し、美咲は歩きだした。
数時間後、人生を揺るがすような大事件が待っているとは思わないまま____

