これが晴斗の本性なんだ。

 美咲は確信するが、時は既に遅かったかも知れない。


 がっちりと掴まれた手首は全く動かない。

 猛獣に捕らわれたウサギのような心地で、晴斗を見つめた。


「な、何なの…一体…、離して…」


 声が震える。

 頭がクラクラして、視界が揺れた。

 それは、この暑さのせいなのか、この人から感じる恐怖なのか。

 きっと、両方だ。


 とにかくこの腕を振り切って、早くこの場を去りたいのに、足が震えて動かない。


「やだ。離さない」


 そう言った晴斗の声は、いつもよりもずっと低い。

 簡単に解放してくれそうになくて、絶望的な気持ちになった。


 今朝、私が追いかけた時は、 あんなに素っ気ない態度だったのに、どうして今になってこんな事…

 全然、理解が追いつかない。


「それよりさっきの告白聞いてたのなら、最後までちゃんと聞いてくれない?」

     
「え…」


「俺が好きな人って、誰だと思う?」


 晴斗の好きな人?

 晴斗の片思いの相手?

 さっき、あの子の前で、誰にも教えないって言ってたじゃん。


「わ、分かんない…」


 それなのに何で今、私に、こんな話をしてくるの?


 次第に目の前の晴斗の端整な顔に、白いモヤがかかり始めた。

 身体がフワフワと宙に浮くような感じがして、今ちゃんと、地に足をつけて立っているのかも分からなくなってくる。


 晴斗は、力の入らない美咲の身体をギュッと引き寄せると、優しく囁いてくる。


「それはね、美咲の事」


「……私?」


「そう。俺はね、美咲の事が好きだよ…」


 言い気かせるように言う晴斗の甘い声は、虚ろな美咲の頭の中で何度も響いてくる。


 晴斗が私を、好き?

 一体、何を言ってるの?


「ふざけないで…」


「ふざけてないよ」


「だって晴斗は、ずっと私を虐めてた。だから私は、晴斗の事が嫌いなのに…」


「うん」


「…晴斗なんか…大嫌い…だよ」


「うん、知ってる。だから、俺の片思いなんだよ?」


「…っ」


 ついに膝から崩れてしまった美咲は、晴斗の胸の中で抱きしめられていた。


「でもね、俺は諦めが悪くて。美咲が俺を嫌いでも、いつか絶対に俺のものにするね…」


 そう、決意するように言った晴斗の腕の中は、優しくて、甘い匂いがした

 これが晴斗なの?

 私、こんな人、知らないよ……



「だから美咲?早く、俺の中に落ちておいで……」



 楽しげなその言葉を最後に聞いて、美咲の意識はプツリと途絶えた____