晴斗のはっきりとした声が、美咲の耳を貫いていった。
他の子とは違う、普段から特別親しいはずのサッカー部のマネージャーからの告白。
晴斗は断るわけないと思っていた美咲は、「え、何で?」と、思わず声が漏れそうになった。
今までのフワフワとした雰囲気が一変、重い空気が流れる。
「先輩…、どうしてですか?私じゃ、ダメなんですか?」
「ごめんね…」
「付き合ってからでもいいんです!少しずつ、私を知ってもらえれば…。それでも駄目なら私、諦めますから。簡単に、私を拒まないで…!」
悲痛そうな彼女の叫びが屋上に響いた。
好きな人に振られる悲しさを知っているから、やっぱり来るんじゃなかったと、本気で後悔した。
「俺、好きな子がいるんだ…」
晴斗は静かに口を開く。
「えっ…」
「でも完全に、俺の片思いだけどね…」
切なそうに表情を歪ませる晴斗は、目の前の彼女と同じくらい悲しそうに見えた。
「先輩はサッカー一筋で、彼女を作る気がないって言ってたのは?」
「そう言えば、皆諦めてくれると思ったからだよ。でも、奈々はサッカー部のマネージャーをしてくれてるし、色々世話にもなってるから、ちゃんと本当の事を言おうと思って…」
「先輩…」
「ごめんね。奈々の気持ち、応えてあげられなくて…」
晴斗もあんなふうに出来るんだ。
綺麗に頭を下げて謝る晴斗に、横柄な5歳の晴斗しか知らない美咲は、知らない誰かを見ているような不思議な気持ちになった。
「いえ、本当の事を話してくれてありがとうございます。それだけでも私、特別って感じがして嬉しいです」
彼女は、目尻の涙を拭って笑みを浮かべた。

