それからは、場をおさめるのが大変だった___
晴斗に強い憧れを抱く三名の友人達は、美咲が晴斗と兄妹というのをずっと教えてくれなかった罰と称して、晴斗に関する様々なお願いを課してきた。
ザッとメモに箇条書きにすると、こんな感じだ。
1、晴斗の寝顔か生着がえを撮影してくる(千晶)
2、晴斗の連絡先を入手してくる(真美)
3、消しゴム、シャー芯、なんでもいいから晴斗の使っている私物を一つゲットしてくる(桜子)
晴斗を嫌っている美咲にとってはどれも無理難題。
そもそも、盗撮、プライバシー侵害、窃盗と立派な犯罪じゃないか?と美咲は思う。
「ってかどれも無理!うちら兄妹は、その辺の兄妹と違って、全然仲良くないから!」
私達は今朝、良好な兄妹関係を築く事を放棄したばかり。
今日から互いに、他人よりも余所余所しい関係になるつもりなのに……
「美咲、お願い!うちらにとって先輩は、ずっと雲の上の人だったんだよ?思い出一個もらうくらい、罰あたんないじゃん?」と、真美が必死な顔で、手のひらを擦り合わす。
「でもねぇ…、私はあの男に近付くどころか、視界の隅にも入れたくないの!」
「どうしてですか?あんなにかっこ良くて優しい人がお兄様だなんて、羨ましすぎますけど?」と、桜子が目を輝かせる。
「そういうところが嫌!あの人、見かけだけで全然優しくなんてないから!」
「意味、分かんない…」と、千晶が無表情で首を捻っている。
「とにかく諦めて!協力はしないから!」と、三人のお願いを美咲は無理矢理突っぱねた。
すると、真美がボソリと呟く。
「でもさ、美咲もうちらの気持ち、分かるはずでしょ?」
「え?」
「人に恋する気持ち。あんたも中学の卒業式で、好きな先輩にボタンもらったって言ってたじゃん?」
「うっ……」
それを言われたら、胸が痛い。
美咲だって、今まで恋をした事がないわけじゃない。
人を好きになると、どんな気持ちになるのかは分かるつもりだし、その人が身につけている物一つ、手元にあるだけで嬉しくて幸せな気持ちになるものだ。
「どうしても無理なら、その時は私達、潔く諦めるから、お願い?」
三人が潤々した瞳で美咲を見つめている。
「…はぁ。分かったよ。やるだけやってみる…。だけど、期待はしないでよ?」
「やったぁ!ありがと~美咲!」
「嬉しいです~。美咲ちゃん、ありがとうございます」
「………」
ギュウッと三人に抱きつかれて、何だか照れくさくなった…
親友の為なら仕方がないか。
皆、晴斗とは学年が違って接点が少ないから、これは、晴斗と一緒に住んでいる私にしか出来ないことなんだよね……
「あんたは最高の友達だよ!」
「そう?お礼なら、成功してから聞いてもいい?」
「あ、そうそう。ついでにもう一つお願いがあるんだけどいいかな?」
「え、もう一つ?」
ついでと言われて嫌な予感しかせず、笑顔で固まってしまう。
「……な、何かな?」
「先輩が告白されるところを見てきてほしいの」
「は?」
真美の言葉に、さっきまで照れくさかった身体が、急激に冷め始めた。
切り出しにくそうに、桜子が口を開く。
「あ、あのですね、実は、サッカー部のあのマネージャーさん、今日先輩に告白するってさっき小耳に挟みまして、先輩がマネージャーさんと付き合うのかどうかを、見てきて欲しいんです」
「そ、そんなの自分達で見に行けばいいじゃん!」
「私達は先輩が好きだから、怖くて見れない」と、千晶が無表情で言う。
「そうそう、美咲は妹なんだからドキドキなんてしないでしょ?頼まれついでによろしくね!」と、真美に都合よく押し切られた。
「よ、よろしくって、ちょっと、聞いてないって!」
三大犯罪に、盗聴までもが上乗せされて、美咲はがっくりとうなだれた___

