「はぁ…。晴斗先輩、今日もかっこよかった…」

「こっち見てたような気がして、なんかドキドキしちゃった〜!」

「やっぱり?先週も先々週も見てたような気がするの!」


 片平晴斗が去った後、クラスの女の子達が騒ぎ始めるのはいつもの事。

 皆一様に、顔をホクホクさせながら、その興奮は冷める様子がない。


「ねぇ、どうする?もし、このクラスに先輩の好きな子がいたら…」

「ヤバい、ヤバい、ヤバい!それ、ヤバすぎなんだけど〜」


 選択授業で週に1回、奇跡的にこの一年のクラスの前を通る晴斗を、熱い視線で目に焼き付けては、キャアキャアと盛り上がるのが楽しくて仕方がない。

 好きな芸能人を話題にするみたいに、晴斗は誰の手にも届かない、皆の憧れの人だった。


「だって先輩って、今彼女いないんだよね?」

「この学校に転入してきて既に半年だけど、誰とも噂になってないよ」

「この間、先輩に告白した2組の子、凄く可愛かったのにふられちゃったみたいだし」

「じゃあ、やっぱりこのクラスの誰かに片思いとかぁ?」


「きゃぁぁぁ〜!!」と、教室中に女子の甲高い声が響く


 たった一人を除いて……


「ねぇ、ねぇ、さっきから黙ってるけど、美咲はどう思う?」


 突然、話題を自分にふられ、自分の席から窓の外の景色をぼーっと見ていた片平美咲は、慌てて皆に顔を向けた。


「え、な、何っ?」

 
「晴斗先輩だよ?このクラスに好きな人、いると思う?」


「さ、さぁ~」


「気にならないの?学校一の爽やかイケメンなんだよ?」


「うん。私、あの人、実はちょっと苦手で…」


「はぁっ?何で!?」


「なんか、意地悪そう…」


「はぁ?意地悪!?美咲、知らないの?先輩ってね、顔だけじゃなくて性格まで超優しいんだから!」


「へぇ~」


「今ね、サッカー部のマネージャーが足を怪我してるのを、毎日部活終わり、家まで送り届けてあげてるって」


「そうなんだー…」


「さぁ~」とか「へぇ~」とか「そうなんだー…」とか、素っ気ない返ししか知らない美咲に、本気で信じられないといった顔で目を丸める友人達。


 やがて、その中の一人がぼそりと呟く。


「……美咲が求める優しさが何なのか分かんないけど、たぶんこの地球上の男達は、誰も持ち合わせてないと思う…」