亜季は午前五時頃、無機質な金網の前に着いた。

そこには恐ろしい光景が待っていた。


数時間前までは泣き叫び、拳を振るっていた民衆が、金網の向こうで微動だにもせずに何人も横たわっている。

高熱にうなり声を上げている人も何人かいいたが、それはほんのわずかであった。

大勢の人が金網の「こちら側」で、「向こう側」の様子を無力感に支配されながら見つめて立ち尽くしている。


その横で、亜季は恐怖と言ってもいいほどの不安にかられた。

そしてその気持ちを振り切るかのように、金網沿いに走り始めた。


昨日から走りすぎて、両腿が痙攣しかかっている。

でも、そんなことには構っていられなかった。



数百メートル離れた林の中の、昨晩と同じ木の下に、テツオはもたれかかりながら座っていた。

その姿を見て、とっさに亜季は叫んだ。