思わずその名を呟いてしゃがみこむ亜季の耳に、聞きなれた声が飛び込んできた。


「亜季。」

そこには、探し続けていた一人の男が座っていた。


「テツオ!」

その姿を確認すると、亜季の心は炸裂した。


亜季は言葉にならない声を上げながら、両掌で金網を掴み、そして何度も何度もそれを揺らしながら、その名前を叫び続けた。

そんな亜季を安心させようと、テツオは左手を軽く振る。


その様子を見て、少し落ち着きかけた亜季は、ふと気がついて再び叫び声をあげた。


「テツオ!右手が…、右手が…!」

そう、優しく左手を振るテツオには、右手がなかった。