さらにその二メートルほど先にも、同様のフェンスが立っている。


それは、あくまでも菌保有者と非保有者の接触を避けようとする、政府の強い意思を表していた。

その強固なバリケードは、一日二日で作れるものなどでは決してなく、それはすでに政府がこのような事態を想定していたことを指している。


亜季は数歩駆け寄ると、摩擦を極力抑えた金網に取りすがり、金網の向こうをじっと見つめた。

そしてそこに広がる光景を見止めると、亜季は思わず気を失いそうになった。

少し先にあるもう一枚の金網は、数え切れないほどの民衆で一杯であった。


焼け爛れた子供を抱きながら絶望感に泣き叫ぶ若い女性、必死に拳で金網を叩き続ける男たち、そしてぴくりとも動かぬ性別も年齢も分からぬ真っ黒な遺体…。




それは、まさしく地獄絵図であった。