伯父のほうを振り向くと、ぽつりと言う。

「おじさん。お父さんやお母さんには言わないでね。」

にっこりと笑ってそう言う姪に、伯父はただ小さく頷いて答えた。


伯父は昔から知っている。

この姪が、この上もない優しさを持っているということを。

その口止めは、東京に行くときの頑なな気持ちからではないことを。


それを思うと、老いた目頭が熱くなってくる。


「くれぐれも体には気をつけるんじゃぞ。」

その声に頷いて路地を走り去っていく亜季の後姿を見届けると、伯父はその右手で両目を押さえずにはいられなかった。