亜季は一年あまり前まで通っていた、あの高校にやってきた。


行く宛ても無い亜季の足は、自然とこの場所に向うしかなかった。

目の前にある金網の向こうには、あの頃と変わらず校舎が立っている。


その薄汚れた壁を見つめていると、一人でそこに向けてボールを投げ続けていたあの頃のテツオが、今にもユニフォームを着て姿を現しそうだ。

あの頃のテツオと今の自分、いったいどちらが一人ぼっちであろうか。


亜季は校門をくぐると、野球グランドへと向かう。

まだ昼過ぎだというのに、部員たちの姿は無い。


三年生たちの最後の夏の大会が終わったばかりのこの時期。

二年生たちは正選手になれる喜びから練習をするものではないのであろうか。


しかし、そのようなことを考える自分のほうがおかしいのかもしれない。

この学校にとっては、これが当たり前の光景なのだ。



テツオ、つらかっただろうな。