「お譲ちゃん。食べるかね?」

突然声をかけられ、亜季は驚いて目の前の寝台の方を向いた。


そこには70歳は裕に超えているであろう老婆が座っていた。

彼女は、顔に刻まれたしわを深めるようににっこり笑いながら、小さなバナナを亜季に向かって差し出す。


「まあ、やつれちゃって。可愛い顔が台無しじゃの。」

老婆は心配そうに、亜季の顔を覗き込んだ。


亜季はその澄んだ瞳に思わず顔を背けると、右手でごしごしと両目を拭う。

そしてもう一度老婆のほうに向き直ると、大事そうにその一本のバナナを両手で抱くように受け取った。