初めて亜季は気がついた。


田舎にいた頃、変わらなかったのは生まれた街のせいではなかった。

全て自分のせいだった。


上京してきてからも、自分は何一つ変わらなかった。

亜季がこうして時間を浪費しているうちにも、まりは美容師としての腕を磨き、田舎ではきっとテツオが野球の技量を磨いていることであろう。


その日、亜季はアルバイトの休憩時間、三人がけの机の椅子にただ一人腰を下ろして、真っ白な机の表面をじっと見詰めていた。

その表情は思いのほか沈んでおり、途中から隣に座ったまりは思わず声をかける。


「亜季ちゃん、何かあったの?」

心配そうにそう尋ねるまりの問いに、亜季はなにも答えない。


その普通ではない様子に、まりはそれ以上何も尋ねず、備え付けの給湯器から湯飲みにお湯を注ぎ、ティーバッグを入れて亜季の目の前に差し出す。


亜季はそれを両手で受け取って例をすると、一口飲んだ。


そしてそっと湯飲みをテーブルの上に置くと、重い口をゆっくりと開いた。


「まりさん。」

「ん?」

ぽつりと声を発する亜季に、まりは小さく言葉を返した。


「私、一回田舎に帰ろうかな。」

「それがいいかもね。」

まりは、思いもよらず即答した。


その予想をしなかった反応に、亜季は思わずまりの顔をじっと見つめた。