アルバイトに向かう途中に見上げる桜通りの木々は、とうにピンクの花びらは散り、枝には力強い緑色の息吹が支配していた。


桜は季節によって、いろいろな顔を見せる。


夏の力強い緑。

秋の寂しい紅葉。

冬の凍ったような枝。

そして長い冬を越えて咲かせる満開の花びらたち。


その絶えず変化する姿を見るたびに、亜季の心は大きく沈んだ。


東京に来ると、やることなんてたくさんあると思ってた。

黙っていても、いろんなものが猛スピードで迫ってくると思ってた。

ただ時間だけが流れている田舎なんて、大嫌いだと思ってた。


そう思って、実家を飛び出してきた。


しかし、現実は違かった。


ただ時間を浪費して、意味もなく生活のためにだけアルバイトを続ける毎日。

変化など、そこには何もなかった。


そんな生活を続ける亜季に比べたら、田舎の変化は激しい。

山々は日々違う顔を見せ、真夏のうだるような暑さがあるかと思えば、凍てつくような雪深い冬がやってくる。


そんな田舎を、どうして変化がないなどと思っていたのであろう。


自分の幼さが、情けなくなる。