まだホームには、ところどころに雪が残っていた。


春の柔らかな日差しの穏やかに照りつける。

そのかすかに肌寒い風が吹く無人の駅に、亜季はただ一人立っていた。


亜季は、生まれ育ったこの田舎じみた村がとにかく大嫌いであった。


のどかな山々も。

気さくに話しかけてくる人々も。

無邪気なクラスメイトも。


全てが嫌で嫌でたまらなかった。

一刻も早く退屈なこの村を出て、憧れの大都会へと行きたくてたまらなかった。


錆付いたベンチに腰を下ろしながら亜季は澄み切った青空を見上げる。

そして亜季はその高鳴る気持ちを落ち着かせるように。


まだ少し冷たい春の空気を胸一杯に吸い込んだ。

ここのホームで電車に乗ると、数時間後にはこの村から出ることができる。

そしていくつかの電車を乗り継ぎ、最後の寝台電車を降りれば、もう東京の住人だ。


東京駅に降り立った自分の姿を想像する。

すると亜季は、にわかに気持ちが高揚するのを抑えることができなかった。