あの忌々しい金網越しにしか見ることの出来なかったあの場所に、亜季はいた。

腕を失ったテツオが、苦しそうに肩を上下して寄りかかっていた一本の樹を優しく撫でると、それを背にゆっくりと座り込んだ。


目の前にはあの金網が広がっている。


しかし亜季の街側のそれはすでに撤去されており、この一枚だけ残ったそれもすぐに撤去されるであろう。


この絶望的な遮断壁を通してうろたえる自分を前に、テツオは何を思っていたのだろう。

この極限状態で白球を握ったとき、何を考えていたのだろう。