「失礼します。」

亜季はそう言って座り込む尾上に一礼する。

そして、ホームから無人の駅舎へ降りる階段に向かって歩き始めた。


その姿を見て、尾上がよろよろと立ち上がった。

「あの!」

尾上の呼びかけに、亜季は足を止めた。

「あの…、これ…。」

尾上はそう言ってポケットを探ると、一枚の紙切れを取り出した。

亜季は力なく振り向くと、その広げられた手のひらの上に置かれたものを見つめた。


それは、亜季の渡した弁当に入っていた、あの箸袋であった。


それを見て、亜季の両目から、大粒の涙が溢れ出た。

嗚咽が漏れそうになり、必死に両手で押さえ込む。