「検体は著しく疲弊しております。ただ、一般的に毒薬に位置づけられているケミシトロンが、ある一定の効果を上げた今、同系統の薬品を投入し、その経過を見守るべきだと思います。」

尾上は、淡々と自分の意見を述べた。


「いいのか?」

尾上の様子を、北村はじっと見詰めながらそう尋ねた。


「民衆を救う…、いや、なによりも検体を救うためにもそれが最善だと思います。」

きっぱりとそう言う尾上の姿に、北村はぐっと食いしばったが、やがて耐えかねたように目をそらした。


「せめて携帯電話がつながれば…。」


北村はうめくように呟いた。被弾からすでに1週間以上たち、携帯電話の電池はとっくに切れていた。

電話線が切れたのか、交換所が破壊されたのかわからないが、固定電話もつながらない。


外部に連絡を取る術は全くなく、栄養補給のための点滴すら枯渇している状況であった。