「尾上君。ちょっといいかな。」

ベットに横たわったまま、すでに口を聞くのすらも厳しくなってきた親友を目の前に立ちすくむ尾上の背中に向かって、そう北村の声がかかった。


尾上は振り向いて小さく返事をすると、部屋の角に控えていた看護婦にいくつかの指示をして北村と共に病室を出た。


「まあ、かけたまえ。」

北村の研究室に通された尾上は、その言葉に小さく頷いて応接セットのソファに腰を下ろした。

北村もその前におかれたデスクに腰を下ろす。


「検体のことなんだが、投薬を続けるべきだと思うか。」

尾上は親友を名前で呼ばずに、「検体」と呼ぶことに対して抵抗があった。


しかし、私情を挟んではいけない。

そう自分に言い聞かせ声をふりしぼった。