しかしこのままだと、目の前の若者が言うように、いつか官邸を取り巻く暴徒がバリケードを突破してくる。

そして首相官邸が襲われたその映像を国民が見ると、世論は一気に傾くであろう。

それを放置することは、打算で動くこの男には考えられないことであった。


胎は決まった。


「官房長官。すぐに防衛庁に電話をし、ヘリコプターをありったけ用意させろ。それに食料品や薬品、その他物資を詰め込んで、低空飛行で隔離地域に投下させろ。」

「え、しかし、空中からの感染の可能性があると…。」

「うるうせえ。やれといったらやれって言ってんだ。」

「は、はい。」

官房長官は、もつれた足を必死に前後させながら、部屋を出て行った。


まったく、人気の官房長官も聞いてあきれる。

大隅は小さく溜息をついた。