「総理!外は民衆が取り巻いております!このままでは暴動に…。」

「わかってるわい!」

大隅が一喝すると、到着したばかりの官房長官は、脅えたような表情で数歩下がった。

その姿を無視するように、大隅は自室の中で一番見渡しのよい窓の側に歩み寄った。


そこから見える光景は、凄まじいものであった。

取り囲まれた塀の周りは数え切れないほどの民衆に取り囲まれ、唯一ある門を必死に抑えている警備員たちが、いつその勢いに弾き飛ばされて、暴徒が侵入してくるか分からない。

手前のほうでは、廃車同然にされた長官の公用車が止まっている。恐らく官邸へ入る門をくぐる前に、民衆に袋叩きにあったのであろう。


大隅は迷っていた。


感染の強さもはっきりと分からない状態で、隔離された民衆と接触するのはあまりにもリスクが多すぎる。

かといってこのまま放置しておくわけにもいかない。