「生きてね。」

死なないでね、とは言わなかった。

言ったら現実になってしまいそうで、言えなかった。


「わかった。」

テツオはそう言うと、亜季に背を向けた。


「特効薬が見つかって、この金網が開いたら・・・。あのホームで、待っててくれ。」

「うん、ずっと待ってる。必ず待ってる。」

亜季の返事に、テツオは振り返らずに頷くと、よろよろと歩き始めた。


その大きな背中が見えなくなるまで、亜季はずっと見つめていた。


きっと、テツオは帰ってくる。

薬品の副作用にも耐えながら。

きっと特効薬が見つかる。


信じよう。

信じよう。

信じよう。


亜季は、ぎゅっと両目を閉じた。




二枚の金網で隔てた地面には、汗で汚れた白球が転がっていた。