「うん、わかった。その時はホームで待ってる。」

そう笑顔で言う亜季のことが、テツオは心の底からいとおしく感じる。

いつかその体を力いっぱい抱きしめるためにも、絶対に生きぬいてやる、心の底からそう思った。


そんな二人の頭上では、空を覆っていた重苦しい鼠色の雲が途切れ、その隙間から夏の太陽が覗き始める。

その日光をテツオは眩しそうに見上げた。


その時、今日何度襲ったか分からない痛みが、テツオの右手を再び襲った。


そのあまりの痛みに、テツオは思わずよろけて金網に寄りかかった。

その手からは力が抜け、握っていた白球が地面に転がる。


テツオはとっさに包帯をめくり、傷口を苦痛にゆがむ顔で覗き込んだ。


「大丈夫!?テツオ!」

「…。」

テツオは何も応えなかった。亜季は不安に陥った。

「ねえ、答えて!」