その日も。

テツオは何度も何度も、ボールを投げ続けた。


その日々進化する球速を見て、亜季はわずかな希望を抱き始めた。

こんなに元気なら、感染しているはずは無いのではないか。


「亜季。」


亜季は突然自分の名を呼ばれ、顔を上げた。

目の前では、テツオがボールを投げるのをやめこちらをじっと見ている。


「いつかはこの金網がはずされるときが来る。その時は、あのホームで待っていてくれないか。」

テツオは、その言葉をずっと言いたかった。


あの東京へ旅立っていった日、亜季は待ってはくれなかった。

テツオはその旅立つ後姿を、ただただ見送るしか出来なかった。

だから亜季に思いをいつか伝えることが出きるのなら、あの場所で自分のほうを見る亜季に、正面から伝えたいと思った。


そこから、全てを始めたかった。



でも、あの場所にいけないのなら。



思いはしまっておこう。