亜季は力任せに金網を叩いた。


その小指に鈍い痛みが走るが、亜季は声を上げたりなどしない。

その小さな手が金網に立てた鈍い音は、テツオの目を覚まさせるのに十分であった。


そうだ。

自分が苦しそうな顔をしていたら、亜季はさらに辛い思いをするであろう。


テツオは立ち上がった。


「そうだ。」

そう言ってテツオは、ポケットから白いボールを取り出した。

「この間グランドに行ったとき、これを持ってきたんだ。」

そこで遭遇した光景にはあえて触れようとせず、テツオはにっこり笑ってそのボールを握って亜季のほうに見せた。


「これで、これから練習する。」

テツオはそう言うと、思いっきり振りかぶってそのボールを金網に向かって投げる。


しかしそのボールは、山なりの軌跡をのこして金網にぶつかり、乾いた音を立てて草むらに落ちた。