亜季は胸をなでおろした。

金網の向こうに積みあがる死体の山を見るたび、あの中にテツオがいるのではないかとおぞましい想像をした。


しかし、目の前にテツオがいる。

その金網に向かって腰を下ろす彼の姿を見て、亜季はほっとした。


亜季は顔についた泥を右手の甲で拭うと、両腕に抱えてる包みを差し出した。

「このお弁当、私の伯父さんが作ったんだ。今すぐにもテツオに渡したい。」

そう言うと、亜季は大事そうにそれを胸に抱え込んで座り込んだ。


「でも、これをそっちに投げ込むことは出来ないの。見張りの人が…。」

そう寂しそうに言う亜季の後ろで、人影とともに何かがきらりと光った。


テツオは全てを悟った。


「ごめんなさい…。」

「いや、ありがとう。その気持ちだけで、本当にうれしい。」

テツオは口ではそう感謝の言葉を言いながら、それと反するように力なくうなだれた。


亜季は、怖い思いをしたんだろう。

ごめん。



自分たちは、政府から病原菌扱いされているんだ。