「テツオが来ないから、金網沿いに姿を探してたの。よかった。本当に無事で良かった。」

無理もない。


テツオですら吐き気を催すような惨状である。

その光景は亜季にとって今までにない衝撃であったに違いない。


亜季は変わらない。

何かに向かって一直線に駆けていくその姿を、いつもテツオは尊敬の念で見ていた。


しかし、一点だけ変わった点がある。

以前の彼女は、こんなにも感情を表に出す人間ではなかった。


高校時代、いつも亜季は傍にいた。

少しすかしたその横顔が、テツオには眩しかった。


しかし他の同級生に比べるとテツオは亜季と精神的に近い位置にいたものの、それでも遠く都会に目を向けた亜季の心は、いつも遠いところにある気がした。


だが今になって、その内面に宿っていた優しさを垣間見、さらに彼女に対する思いに気がついた。


でも、言ってはいけない。