テツオは走り続けた。


昨日の大雨でぬかるんだ道は、右手を失ったテツオの体のバランスを何度も奪った。

しかしテツオは、必死に踏みとどまってあの金網を目指す。


あそこに行けば、あいつに会える。


診察へ向かう民衆をかき分け、現れた森の中の細い道を走り続けると、やがて視界は大きく開ける。

この雨に濡れた草原をひたすら走ると、あの忌々しい金網が見えてくるはずだ。


テツオがそこについたとき、辺りは修羅場と化していた。


金網の前には、どす黒く変色した多数の人間が、折り重なるように横たわっている。

彼ら彼女らは、二度と起き上がることはないであろう。


わずか数日前には、互いに笑いあい、将来を語り合い、人を愛していた人間たちは、いまや身動きもしない骸となってしまった。