しかし、テツオにはそんな尾上の心中が分かっていた。


テツオは弾かれたかのように駆け出すと、出口のドアを開ける。

そして一瞬振り向き尾上に深々と頭を下げると、廊下に座り込んで診察を待つ人々の横を駆け出した。


尾上はそんな後姿を見送ると、診察用の椅子に腰を下ろした。

そして白衣の中から一本の髪留めのゴムを取り出すと、右手で力いっぱい握り締めた。


自分には愛する人のぬくもりを感じられるものは、もうこんなものしか残っていない。

だからこそ、友には亜季という女性の元へ行って欲しかった。