そんな亜季の背中を、突然衝撃が襲った。


亜季が驚いて後ろを見ると、背広を着た一人の四十位の男が、慌てたように早足で亜季の横を小走りに歩いていく。

何をそんなに急いでいるのであろうか、亜季は呆れたような目で、その男の背中を見送った。


でも冷静になって辺りを見回すと、異質なのはその男ではなく、どうやら自分のほうであると気がついた。

あたりを行き交うたくさんの社会人も学生も、恐ろしいほどの勢いでこの狭い通路を歩き抜けていく。


亜季の心は高揚した。


これが東京なんだ。

休むことなく絶えず動いている都会なんだ。

そこに、自分はこれから暮らすんだ。


その事実に、否が応でも亜季の胸は高鳴る。



亜季は慣れない激流のような流れにもまれながら懸命に歩き続け、やっとのことで中央線のホームにたどり着いた。

しかしその時、ちょうど前の電車が出ていくところであった。


ああ、あとどのくらい待てば次の電車が来るんだろう。


取り残された亜季が、多少の落胆を感じていると、先ほど電車が立ち去ったばかりのレールに乗って、すぐに次の電車が入ってきた。


ええ?もう次の電車?

亜季の田舎の無人駅なら、一時間は待つところだ。