そのような民衆を、尾上の診察している部屋の窓から見下ろすテツオは、唇をかみ締め見下ろしていた。

これらの怒りは、必死に診察する尾上たちに向けられるべきものでは決してない。


「テツオ、タオルを取ってくれないか。」

「…ああ。」

尾上に言われると、テツオはそう返事をして窓のそばにかかったハンドタオルを取った。

そして、傷ついた老婆の前に座る尾上の手に渡した。


尾上はそれを受け取ると、老婆の右手の5センチほどの傷にガーゼをあて、そのタオルで縛った。

補給もままならない状況で、とうの昔に包帯などなくなっているのだ。


「本当に、ありがとうございました。」

老婆はそう言って尾上に深々とお辞儀をした。


そして立ち上がりもう一度お辞儀をすると、外で沸き起こる怒声に耳を傾けながらぽつりと言った。


「本当に申し訳ないのう。逃げたのはあなたたちではないのに・・・。」

「いえ、いいんです。」

尾上は微笑みながらそう言うと、老婆はほっとしたように笑って、もう一度会釈をして席を離れた。