「俺は必死で頑張った。何人かでもその命を救おうと、あらゆる処置を施した。なのに…。」

尾上の言葉は震えた。


「尾上…。」

「なのに、みんな死んでいった。真っ黒になった熱い体を必死に抑えながら、みんな息を引き取っていった。」

尾上は顔を上げて、テツオを見つめた。


「香澄もそうだった。」

その言葉に、テツオは言葉を失った。


そう、香澄という名は、尾上の恋人の名であった。


それを聞くとテツオは、自分の体から全ての血液が抜け、細かく震えるのがわかった。

しかし尾上は、苦しい胸中を語り続けた。


「あいつは最後まで、眠らないで診察する俺の体を心配していた。高熱と真っ黒な斑点の痛みに耐えながら、あいつはいつも心配していた。」

尾上は、両目を覆った。


「なのに俺は…。」

尾上の唇は震え、語尾は聞き取ることが出来なかった。